ADCデータシートの読み方
ADCの性能をちゃんと把握するには、データシートの意味を理解できないといけません。 そのために自分が調べたことをまとめておきます。SDRに関連する、AC性能の指標だけです。
Understand SINAD, ENOB, SNR, THD, THD+N, and SFDR so You Don’t Get lost in the Noise Floor
上記資料に重要なことが上手くまとまっていました。
FFTの読み方
これは、LTC2291というADCのデータシートからの抜粋です。25MHzでサンプリングし、30MHzの正弦波を入力したデータに8192ポイントのFFTを掛けたものです。このADCは12bitの解像度ですので、SNRは最大でも6.02*12+1.76=74[dB]になるはずです。 でも図を見てみると、ノイズ部分が100[dB]近辺に表れています。
この理由は、上記資料のFigure2から読み取れます。
FFTのノイズフロアの理論値は、SNRの理論値にFFTのプロセスゲインを加えたものになります。 FFTのプロセスゲインは、Mをポイント数とすると、10log(M/2)で求まります。 つまり8192ポイントのFFTであれば、10log(8192/2)=36[dB]がFFTプロセスゲインになります。 この効果のおかげで、ノイズフロアは70[dB]近辺から100[dB]近辺に見えるようになります。
SFDRについて
SFDRとは、入力信号のRMSと一番大きなスプリアスのRMSとの比のことです。 SFDRは、フルスケール比(単位dBFS)と実際の信号振幅比(単位dBc)で表記されます。 この関係についても、上記資料から図を引用します。
これを念頭に置いてデータシートのSFDRの図を見てみます。
横軸が、入力信号のレベルになります。つまり、30MHzの正弦波の振幅を大きくしていったときのSFDRが縦軸にプロットされています。 例えば、-60[dBFS]の入力時のSFDR[dBc]は大体-40です。それで、入力信号以外で最も大きいスプリアスのスペクトルは、-60-40で-100[dB]近辺に現れていることになります(はっきりと明記はされていませんが、これも8192ポイントFFTが前提だと思います)。 この100[dB]という値は、dBFSの線の方で描かれています。
結局のところ、入力信号の振幅が大きくなっても、スプリアスの振幅はほぼ一定に保たれる(つられて大きくならない)ということを示すための図といえます。
次に、SFDRと入力信号周波数との関係を示した図を見てみます。
上図から、入力信号の周波数が増すにつれて、SFDRが低下しています。すなわち、最大スプリアスがどんどん大きくなっていく、 ということが分かります。150MHzを超えたあたりで80[dBFS]を下回っています。
別のADCのデータシートから同じ内容を見てみます。
これはAD9629-65というADCのデータシートから抜粋しました。これを見てみると、入力信号の周波数が増加しても、先ほどの図よりSFDRの低下は少なくなっています。図示されている周波数範囲内では、80[dBc]を下回っていません。
つまり、200MHzの入力信号をアンダーサンプリングする場合、SFDRについてはLTC2293よりAD9629-65の方が性能が良いことになると言えます。